真空のゆらぎ


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投稿者 松本 日時 2000 年 11 月 26 日 13:17:33:

「真空のゆらぎ」
”なぜビッグバンは起こったか;アラン.H.グース”
に「真空のゆらぎ」が提案された経緯が記載されて
いましたのでご参考まで。

・1960年代終わりに、エドワード・P・トライオン
というコロンビア大学の若い助教授が、イギリスの
著名な宇宙研究者であるデニス・サイアマによる
セミナーに参加した。
 トライオンは「宇宙は真空のゆらぎかもしれない」
という考えを提案した。トライオンは真面目そうに
そう唱えたのだが、がっかりしたことに、年上の
研究者たちは、これを気のきいた冗談と受け取って
どっと笑った。無理もない。何しろ、宇宙がどこから
きたのかについて科学的な考えが唱えられたのは
これが最初だったろうから。

 トライオンは、真空のゆらぎによって、相対論的
量子論から出るたいへん複雑な真空像を指していた。
 原子の振る舞いを記述するために編み出された
量子論の特徴は、予測の蓋然的性格だ。たくさんの
原子の集合の平均的な特性を予測することは可能だが、
どれか一つの原子の振る舞いを予測することは原理的
にさえ不可能である。大雑把に言って、真空中では何
でも起こりうる。真空からデジタル時計が出現する
確率はお話にならないほど小さいが。トライオンが
唱えていたのは、全宇宙がそういうふうに出現した
という奇妙な説であった。

 トライオンは真空のゆらぎという考えをしばらくの
間、頭から閉め出したが、数年後、宇宙論を概観する
一般向けの本を書いていたとき、この考えに立ち戻
った。1973年、トライオンは「ネイチャー」誌に論文
を発表した。表題、「宇宙は真空のゆらぎか」。トラ
イオンは肝心のポイントを理解していた。私たちを
取り巻く広大な宇宙は、真空のゆらぎとして−本質的
にまったくの無から−はじまったかもしれないという
ことだ。宇宙に存在する質量がもつ大きな正のエネル
ギーは、重力場の形で存在する負のエネルギーでちょ
うど打ち消されるからだ。トライオンはこう書いた。
「私のモデルでは、宇宙はおよそ10の10乗年前に
突然現れた。一般に信じられているのとは反対に、
そのような出来事は従来の物理法則に抵触しない。」
 トライオンの論文の弱点は、なぜ宇宙がこんなに
大きくなったのかを説明できないことだった。真空の
ゆらぎの規模は、普通、原子より小さいが、トライ
オンは私たちに、一つのゆらぎの中で宇宙の全物質が
現れたと信じるよう求めていた。トライオンは、物理
法則が真空のゆらぎの大きさに厳しい制約を課すこと
はないと指摘したが、そのような並外れて大きな
ゆらぎが起こる確率を計算しなかった。「なぜ起こっ
たのかという問いへの答えとしては、宇宙はときどき
生まれており、私たちの宇宙は、そういういくつもの
宇宙の一つにすぎないという控えめな説を提示する」
とトライオンは書いた。宇宙が生まれる確率は、たい
へん小さいが、トライオンは、生まれ損なった回数
を数えた人はいないことを強調する。しかし、観察
される宇宙の巨大さは、依然として、トライオンの
提案で説明できない際立った特徴である。トライオン
の仕事は何年もの間、おおむね無視されていた。大方
の物理学者は、宇宙が真空のゆらぎから生まれたと
したら、私たちが観測する宇宙よりずっと小さいもの
になる確率が圧倒的に大きいと考えていたようだ。
 
 重要な発見、何か根本的な問題について人々の抱く
考え方を変えるような科学革命にかかわるのは、若い
科学者なら誰でも抱く夢だ。物質の起源の問題ほど
根本的な問題はまず想像できない。1978年にはじまる
信じられないような一連の出来事に刺激されて、私は、
この主題について新たなる一章を書き加える営みに巻
き込まれることになった。この一章は、他の多くの
物理学者を巻き込み、インフレーション宇宙論の展開
で頂点に達した。この理論は、ビッグバン理論にひねり
を加え、宇宙が出現してから1秒の何分の1という短い
時間に宇宙がどう振る舞ったかについて新たな理解を
提案するものだ。・・・・・・・・・・・・・・・



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