二つの科学雑誌


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投稿者 松本 日時 2000 年 12 月 16 日 12:04:27:

「二つの科学雑誌」
 核融合発電という同じテーマについて二つの科学
雑誌に記事が載っていましたので、概要を紹介します。
 内容を比較してみると、二つの科学雑誌によって、
ニュアンスがずいぶん異なることがわかります。

1.ニュートン2001年1月号,ニュートンプレス

◇21世紀後半、人工太陽「核融合発電」が実現する。
・石油8トンを使って取り出せるエネルギーを、わず
か1グラムの燃料から取り出す方法があります。

◇核融合では、莫大なエネルギーを得ることができる。
・プラズマが絶対温度1億K、1立方センチメートル
あたり100兆個という密度で、3秒ほど閉じ込めら
れると核融合反応がおこります。
・燃料の重水素は海水の中に豊富に含まれています。
また三重水素は海水中に大量に存在するリチウムから
つくることができます。そのため資源の量に関しては
ほぼ無尽蔵といえます。
・三重水素は放射性物質ですが、潜在的放射線危険度
は原子力発電の場合の1000分の1です。また、トラブル
がおきるとプラズマの温度が下がり、核融合反応が
自動的に止まってしまうので、暴走する心配もありま
せん。

◇実現に向けてさまざまな方式が検討されている。
・トカマク型は1980年代半ばから大型実験が行われて
いました。これまでに日本原子力研究所のJT−60
という装置などで核融合がおきるために最低限必要な
絶対温度1億K以上、1立方センチメートルあたり
100兆個の密度のプラズマをつくることに成功して
います。
・ヘリカル型は岐阜県、土岐市にある核融合科学研究
所のLHD(大型ヘリカル装置)で実験が始まったの
は1998年3月ですが、1999年12月に5100万Kという温度
のプラズマをつくることに成功しました。

◇2050年には実際に発電を行う実証炉が完成する。
・トカマク型では2010年ごろに国際熱核融合実験炉
(ITER)が建設され、順調にいけば実際に数10万
キロワットの核融合エネルギーが出る予定になってい
ます。「私たち核融合の研究に関わるものは、2050年
ごろに実際に発電を行う実証炉の完成をめざしていま
す。そして21世紀の後半には大都市の郊外でも核融
合発電所ができると期待されます。」

2.科学12月号,岩波書店
・1931年に寺田寅彦、岡田武松ら5人の編集委員に
石田純を主任としてスタートした科学雑誌。

「ITER 計画のゆくえ−核融合研究の分岐点に立って」
・1950年ころ当時多くの科学者は、核融合によるエネ
ルギー問題の解決は間近であると考えていた。
・人間の月面到達は1960年代の終わりに実現したもの
の、核融合をエネルギーに用いる計画は、半世紀たっ
た現在でもその明確な見通しが立っていない。
・日本原子力研究所の大型トカマク装置JT-60Uでは、
プラズマの閉じ込め性能を向上する努力が重ねられ、
1996年秋、ついに閉じ込め時間1秒、温度10の8乗K
以上、電子密度1×10の20乗/立法mの重水素プラズマ
を実現した。これを重水素(デューテリウム,D)と
三重水素(トリチウム,T)の混合によるD-Tプラ
ズマに置き換えると、外部加熱入力と核融合反応で
発生する出力がちょうど釣り合うエネルギー増倍率Q
(出力/入力)=1の臨界プラズマ条件を実現したこ
とになる。
・これらの成果をふまえて現在、日、欧、露(アメリ
カ合衆国は1998年に撤退を決定)の3極共同でITER
(International Thermonucler Experimental Reactor,
イータ)計画が進められようとしている。

◇学術会議ワーキンググループでの議論
・現在、燃料プラズマを実現させうる可能性をもつ
ものはトカマク型磁場閉じ込めだけであり、それを
初めて実現するのがITER計画である。この研究は、
プラズマ輸送やその不安定性の解明など未解決の
”物理現象”を内蔵しており、基礎科学としても
重要な計画である。
・この計画からアメリカ合衆国が撤退したことは重く
受け止めるべき問題であり、アメリカ合衆国の将来
の対応を注意深く見守り必要がある。

◇巨大基礎科学プロジェクトの意義
・国費を基礎科学の大型プロジェクトに投じる意義は、
つぎの三つに集約されると筆者は考えている。
(1)人類の知的共有財産となるような自然に関する
新しい重要な発見をおこなうこと。
(2)人間の自然に対する夢とあこがれを実現させる
こと。
(3)長い目でみて、いつかは実生活に役立つ可能性
があると期待される学問的成果が得られること。

◇ITER 計画は基礎研究か、エネルギー問題解決の
ための切り札か
・核融合は長い年月をかけてようやくエネルギーの
入出力が同じ(Q=1)になったわけだが、これが
将来のエネルギー問題解決に結びつくかどうかは不明
であるといわざるをえない。・・・・・トカマク型の
核融合が他のエネルギー源に比べて優れているとは
いえないと主張するアメリカ合衆国の物理学者も多い
と聞いている。

◇物理的・技術的諸問題の解決のために
・核融合炉の可能性が論じられ始めてから半世紀が
経ったにもかかわらず、それが実現に至っていない
最大の理由は、プラズマのふるまいがいまだ完全には
解明されておらず、さらに核融合の技術的諸問題が
未解決であるためである。

◇環境への影響をどうとらえるか
・核融合はクリーンなエネルギー源であるといわれて
きたが、それは事実であろうか。
・核融合炉においては核融合反応自体からは放射性
廃棄物は出ないので、核分裂炉で発生するような高
レベル廃棄物は発生しない。しかし核融合炉で発生
する中性子によって多量の放射性物質が作られ、低
レベル放射性廃棄物となって蓄積される。
・この量は、1GW級の核融合炉の材料として低放射
化フェライト鋼を用いるとした場合2万8000立方mと
なり、、核分裂炉に比べて焼く2.5倍になると見積も
られる。

◇計画の進め方
・原子力船”むつ”や高速増殖炉”もんじゅ”の
たどった経過についての反省も踏まえて、新しい時代
にふさわしい科学計画の体性作りが求められる所以で
ある。
・さらに計画の推進にあたっている当事者や学界の
関係者は、科学者だけでなく市民に対しても計画の
現状、展望などをわかりやすく説明し、ともに議論を
進めていくことを喚起する責任があると考える。




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