DNAとの対話


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投稿者 松本 日時 2000 年 11 月 09 日 22:54:08:

回答先: DNA 投稿者 松本 日時 2000 年 9 月 23 日 19:48:18:

”DNAとの対話”はDNAについて、たとえ話
をまじえわかりやすく説明した書籍ですが、もし
ご存知ない方がいたらと思い一部を紹介します。

「DNAとの対話;1995年,ロバート・ポラック」
 DNAは、私たちの身体の細胞すべてのはたらき
をつかさどっている。細胞は忙しい場所で、DNA
に記号として書き込まれた情報に従って構築された
大小の分子たちがひしめく街のようなものだ。

 目に見えない小さな細胞一個を高層ビルにたとえ
たのでさえ大げさなのに、街とは何と大げさなと
思うかもしれないが、細胞は、100兆個もの原子
からできているのだ。一番大きな分子でさえ、それ
を作る原子の数は億の単位だから、細胞には、何百
万個ものさまざまな分子があることになる。

 DNAは、細胞をただの化学物質の溶けたスープ
ではなく、中心部から重要な情報が吐き出される
分子の街、いわばダビデ王のエルサレムの分子版に
しているのだ。壁で囲まれ、食料や水は特殊な門や
運河を通って供給されるこの街には、中心に大きな
寺院があり、さらにその寺院の真中には一冊の本が
置かれている。細胞という街の寺院は、DNAを膜
で包んだ入れ物である核だ。核は、細胞の各所への
情報が発せられる中心でもある。ちょうど聖書が、
神殿の入口で、エルサレムの人々に向かって読まれ
たのと同じだ。

 性能のよい顕微鏡で見ると、細胞はとても複雑に
見えるし、実際複雑である。脂肪分の多い外膜に
包まれていて、その外膜には、ほかの細胞や周囲の
環境との接触を可能にするための門やトンネル、
情報を受け取ったり出したりする受容体や探査機の
役割をする分子がちりばめられている。核と外膜の
あいだに広がる区域は、細胞質と呼ばれ、塩分を
含んだゲルのなかに、細い棒や球体や膜状の構造が
からまりあって点在している。ここにはまた酵素や
その他のたんぱく質が詰まっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一人の人間の細胞に含まれるDNAを、その人の
ゲノムと呼ぶ。そのデザインも内容も、百科事典に
そっくりだ。本格的な百科事典同様、ヒトゲノムは、
巻、項目、文章、単語に分割されている。そして
中国語のような表意文字を用いる言語ではなく、
英語やヘブライ語のような表音文字言語で書かれた
百科事典と同じで、言葉はさらに、文字に分割され
る。生物学者は、ゲノムの「巻」を、染色体と呼ん
でいる。昔の人が顕微鏡でこれを初めて見た時、黒
い点のように見えた(実際には色素で染めた)ので、
ギリシャ語の「色のついた身体」に当たる名前が
つけられた。ゲノムというDNAテキストの「項目」
は、遺伝子群であり、それらが相互作用して細胞や
組織の特性を出すのである。遺伝子は、項目のなか
の「文章」に相当する。ドメインが「言葉」で塩基
が「文字」だ。文字がつらなって言葉を作り、言葉
の羅列が文章になり、文章が集まって項目になると
いったことは、DNAのなかでも起こっている。そ
れがどのように組み立てられているかを知るには、
まず文字そのものがどのように作られ、どのように
して自分自身を複製していくかを知る必要がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

DNAの文字は、100万倍するとちょうどこの
本の文字と同じくらいの大きさになる。しかし、
テキストの見かけは、まったく違う。本の場合、
ページの文字の並びは、二次元的である。それを私
たちは目で読み、ひとまとまりの文字と余白から
言葉を把握する。そしてそれを、自分の言語の辞書
とシンタックスのなかで理解するのだ。まず言葉、
それから文法にのっとった文章、次いで段落、章、
そして最後に、その本の趣旨のすべてを理解するの
である。DNAも、同じように言葉、シンタックス、
意味を持っているが、テキストとしては、分子で
できたレゴブロックのようなものだ。情報は、構造
体の形状によって伝えられるので、離れていては読
むことができない。細胞内のほかの分子によって
「感じ」とられなければ、意味は伝わらないのだ。
DNAの文字は三次元的で、視覚障害者が点字を読
むように、触れて読まれ、理解されるものなのであ
る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あらゆる生物種は、一つの例外もなく同じDNA
の塩基配列を共有している。それは、すべての生物
の祖先がたった一つのDNA型生物であるという驚
くべき考え方「ビッグ・バース論」を裏付ける。
ちょうど、古生物学者が地質に残された刻印を見て、
化石になった古代生物の生きた時代を正確に割り出
せるように、分子古生物学者は、同じ遺伝子のなか
の塩基配列が分岐してさまざまな遺伝子へと多様化
していった速度を当てられる。分子古生物学者たち
は、最初に存在した遺伝子群が、かなりゆっくりと、
100万年で10塩基対のうち1つが変わるといっ
た速さで分岐していることを発見した。分子時計と
呼ばれるこの速度を使うことによって、現存する二
つの種が分岐する前、共通の祖先が生きていた時代
を、数百万年から数億年の単位で知ることができる。
古代生物の化石を正確に時代分けし、はっきりと同
定することのむずかしさと、分析する遺伝子をどう
選択するかによって特異なものを見てしまうかもし
れないリスクとがあるにもかかわらず、野外調査を
する古生物学者と分子にたよる古生物学者とが割り
出す、種の絶滅の年代がほぼ一致するというのだか
らすばらしい。・・・・・・・・・・・・・・・・

 細胞の持つDNA言語と、それがたんぱく質とい
う形で読み解かれる方法は、ロゼッタストーンに
ギリシャ語とエジプト民衆文字と神官文字(象形
文字)とで刻まれた碑文の解読に似たところがある。
1799年に発掘されたこの碑文は、それよりおよそ
800年前に、メンフィスの神官たちによって刻まれ
たものだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・
 この石を発見した人たちは、表音的な文字と
表意的なシンボルとのあいだの翻訳は不可能だと
いうことを思い知らされたのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ロゼッタストーンの場合同様、遺伝子の翻訳も、
最後の段階が一番複雑である。DNAもロゼッタ
ストーンも、線、つまり二次元の描写を彫刻、つま
り三次元にする。情報はともに、いくとかの表音
文字(塩基とギリシャ語)から成る文章から、ほか
の表音文字を使う言語(アミノ酸とエジプト民衆
文字)へ、それから三次元的な彫刻(たんぱく質
と象形文字)へと翻訳される。たんぱく質が、
遺伝子の意味をどう読み出して機能を発揮できる
構造をとるのか、その方法はまだ解明されていな
いが、たんぱく質が遺伝子の情報をもとに組み立
てられていく過程はわかっている。この過程は、
遺伝子情報の翻訳と呼ばれるが、あまり適切な
言葉とは言えない。この過程は、単に文章の意味
をある表音文字からほかの文字に移しているだけ
でなく(それも、やっているのだが)、一連の
文字を、まったく別のたんぱく質用の文字の並び
として読み取り、それによって形を作り、文章の
意味を限定しているのである。

 たんぱく質が、書かれているというよりは彫り
込まれているという点で象形文字に似ているとし
ても、ロゼッタストーンとのアナロジーはここま
でだ。たんぱく質は、DNAの言葉の意味その
ものであって、単なる絵文字への翻訳ではない。
たんぱく質は動き回れるので、ゲノムから送り
出されて、細胞内の染色体から遠く離れた特定の
相手に届けられる。それがどこへ行くにしろ、
たんぱく質は、遺伝子の意味を運び続ける。ほか
のたんぱく質へ、ほかのDNAへ、そしてほかの
細胞へさえも意味を運んで行く。そして、遺伝子、
細胞、組織、器官すべてに対して、ある言葉で語
りかけ、語りかけられたものはそれに答えるのだ。
ある細胞内のゲノムは、特定の遺伝子をDNA結合
たんぱく質に翻訳することによって、絶えず自分
自身と対話をつづけている。ゲノムは、たんぱく質
を通じて、同じ細胞のなかの核外の部分と対話し
たり、さらに身体のほかの細胞内のゲノムとも話し
ている。このような遺伝子とたんぱく質の相互作用
は、サーモスタットのように単純な仕組みで生命
現象を調整していくものでありながら、同時に、
法廷訴訟のように複雑かつ整然とした機能なので
ある。遺伝子はたんぱく質を作り、たんぱく質は
遺伝子を作る。そしてそれらが一緒になって細胞
を作る。遺伝子は、語りかけられて初めてみずから
語れるのであり、この化学的弁証法によって、
われわれの身体は出来上がっているのだ。
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