時代を超えて人類を勇気つけてきた英国の賢者

ジェームズ・アレンとは

◎精神科学ライター/翻訳家 坂本貢一


ジェームズ・アレンの肖像ジェームズ・アレンの肖像


成功哲学の祖

「私たちは、自分が考えたとおりの人間になる」
 「思考は現実化する」

現代成功哲学の祖として知られる、ナポレオン・ヒル、デール・カーネギー、アール・ナイチンゲールらを筆頭に、近来欧米で人気を得てきた自己啓発書作家たちのほとんどが彼ら自身の哲学の最大の柱としているアイデアである。

言うまでもないが、このアイデアを生み出したのは彼らではない。おそらくこれは、人類がこの世に現れ、人生というものを考え始めた頃から、延々と存在してきたアイデアに違いない。事実、仏陀も、「私たちの今の人生は、私たちがこれまでに考えてきたことの結果である」と語り、イエスも「人は密かに考え、そのとおりの者となる」と語っている。

当然のごとく、右の作家たちの中には、自身の哲学の柱を補強すべく、イエスや仏陀の言葉を引用している人達が少なくない。しかしながら、驚いたことに、彼らが、同じ目的で、もっと頻雑に引用している哲学者がいるのである。

ジェームズアレン(1864〜1912)がその人だ。日本ではまだ知名度が低いが、聖書に次ぐベストセラーとまで言われている本の作家として、欧米では広く知られている人物である。

彼は、その本『AS A MAN Thinketh』の中で、古来の複雑な人生哲学、神学、形而上学などの余分な部分をすべてそぎ落とし、宇宙の法則と心のパワーに焦点を当てた、極めてわかりやすい哲学を展開した。そしてそれが、後の時代の自己啓発書作家たちの心をも、しっかりと捕らえたというわけだ。その本は、アレンが1902年に書いたものだが、ほぼ一世紀を経た今でも、世界中で着実に読者を増やし続けている。

そしてその驚異的なロングセラーが、日本でも遅れ馳せながら、一昨年、『考えるヒント・生きるヒント』(ごま書房刊)というタイトルでようやく出版されるに至った。幸運にも私が翻訳を担当させていただいたのだが、そもそもその本(原著)は、十年ほど前のクリスマスに、精神世界に造詣の深い米国のある老婦人から、「落ち込んだりしたときに読んでごらんなさい。すぐに元気になるから。人生なんて、本当はとても単純なものなのよね」という言葉とともに頂戴したものだった。

ちなみに、アレンは他にも18冊の本を書いており、それらもまた、今なお世界中で読者を増やし続けている(そのうちの2冊は、やはりごま書房から『考えるヒント・生きるヒント?』『考えるヒント・生きるヒント?』として出版済み。さらにもう一冊が、今年の一月、『心のなかの自分と語れ』という題で出版されてもいる)。

彼の本が、時代を超えて売れつづけている理由は、おそらく一つしかない。どんな時代においても機能する、どんな人のためにも役に立つ、誰にでも実践可能な人生の極意が、わかりやすく書かれているから。これに尽きるのではないだろうか。

たとえば彼はこんなことを言っている。

§ § §

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理想の人生、三つの条件

アレンが私たちに投げかけているメッセージを一言でいうと、「人間の心にはとてつもないパワーが備わっており、あなたはそれを用いて、理想的な人生を構築できる」ということになろう。ただしアレンは、それには三つの条件があると語っている。

一つは、正義を貫くこと。宇宙の絶対法則である「因果応報の法則」に従い、「善の思考は、少なくとも最終的には必ず良い結果を生み、悪い思考もまた、最終的には必ず悪い結果を生む」という信念が、彼の哲学を貫いている。

二つ目は、自分の思考(および行動)と人生間の因果関係にじっくりと思いを巡らすことで、心と人生の中で常に機能している宇宙の絶対法則を、自らの手で明確に認識すること。「その法則が存在することを、自らの経験を通じて認識することができて初めて、人間は、善い結果を期待しながら、穏やかな心で、常に正義を貫くことができるようになる」とアレンは言う。さらに、この認識を手にした人間は、同じ法則が他の人たちの人生の中でも機能していることを知っており、極めて自然に、誰に対しても優しく接することができるようになるという。

そしてもう一つは、善い結果を明確に思い描き、その達成に「十分に」思いを巡らし続けること。「単に考えただけでは、何もできないではないか」という反論には、「必要な行動が伴わないような思考は、決して十分なものだとは言えない」という答えが用意されている。目標は立てるのだが、達成したためしがない、という人間は、アレンに言わせれば、考える量がまだまだ足りないということになりそうである。

彼はまた、『As a Man Thinketh』ではさらっと触れているだけだが、他の本の中では、生命の永遠性をかなり前面に押し出して議論を進めている。瞑想の重要性を力説している本もある。心のパワー、瞑想、永遠の生命。そうなのだ。アレンの哲学には、精神世界のテーマのほぼすべてが詰まっているのである。

謎の人物アレン

では、そんな哲学を確立したジェームズ・アレンとは、いったいどんな人物だったのだろう。彼は、欧米においても、英国の偉大な哲学者の一人だということ以外には、ほとんど知られておらず、いわば謎の人物であり続けてきた。しかし、彼について語った家族や友人の言葉がほんの少しだけ残っており、それが彼の人物像をそこはかとなく浮き彫りにしている。

アレンにとって、彼の哲学はもはや哲学ではなく、真実そのもの、つまり明確な経験的知識であったようだ。彼の妻リリーによれば、アレンは、「人々への何らかのメッセージがあるときにだけ書き、それがメッセージであるためには、彼が人生の中で実際に試してみて、良いものであることを確認したものでなくてはならなかった」という。彼自身、『As a Man Thinketh』の前書きの中で、「この小冊子は、私の瞑想と体験の結果である」と明言してもいる。

イングランド南岸の静かな保養地、イルフラクームに住み、毎朝夜明け前に、近くの小高い丘の中腹までゆっくりと登っていく。それが、アレンの一日の始まりだった。その丘からは、自宅と海が一望できたという。そこに一時間ほどとどまり瞑想した後で、家に戻り、午前中を執筆活動にあて、午後になると家庭菜園での農作業に精を出す、というのが彼の日課だったようだ。夕方以降は、知人や友人たちとの会話に興じることが多かったらしい。彼の哲学に興味を持った人たちの訪問を、頻繁に受けていたようである。

友人の一人は、アレンをこう描写している。
「彼は、夜になるといつも、黒のビロード地のスーツを着ていた。そして、彼の家を訪れた我々小グループに、瞑想や哲学、トルストイや仏陀について、また、どんな生き物をも絶対に殺すべきではない(筆者注=おそらく、食用にする生き物は除いて)、といったようなことを、静かに語って聞かせたものだった。我々の誰もが、彼のキリストを思わせるような風貌と、穏やかな語り口、そして特に、毎朝夜明け前に丘に登って神と交信していたという事実に、若干、ある種の恐れのようなものを感じていた」

アレンの本で彼に会える

彼が執筆活動に専念し始めたのは三八歳のときだが、そこに行き着くまでの彼の人生は、まさしく波瀾万丈を絵に描いたような人生である。

アレンの生家は小さな事業を営んでいたようだ。しかし、彼が十五歳のとき、その事業が破綻し、それが彼の父をアメリカへと渡らせた。アメリカで一旗揚げて家族を呼び寄せる、というのが彼の父の計画だった。しかし、こともあろうに、その父が、アメリカに着いて間もなく強盗に遭い、命まで奪われるという悲劇に見舞われたのである。家族は生活に窮し、彼は十五歳にして学校をやめねばならなかった。彼はその後、様々な仕事を転々としながら、独学で学び、作家として生き始める直前は経営コンサルタントとして生計を立てていたという。あの深遠かるシンプルな哲学は、彼のそんな人生の中から生まれてきた。

アレンは、48歳という若さで亡くなっており、彼の作家としての人生は十年にも満たなかった。しかし、彼がその間に書いた十九冊の本は、その後も世界中の無数の人たちを励まし続けてきた。

また、彼の作家としての収入は乏しかったようだ。自分のメッセージを少しでも多くの人たちに届けたいという思いから、すべての著書のイングランド外での著作権を放棄していたことが、その最大の理由とされている。

いやはや、並みの人間ではない。知れば知るほど、もっと知りたくなる。しかしながら、アレンに関する情報は、これ以上はどこを探しても出てきそうにない。

とはいえ、あきらめるのはまだ早い。紀伊國屋書店の松原社長がおっしゃっているように(2号のトップ経営インタビュー参照)、私たちは、本を通じて人との出会いを体験できる。私たちは、アレンの本を通じて、彼と出会えるのである。そして、その出会いを重ねることで、アレンという人間をより詳しく知ることができるのだ。一読者として、彼の残りの本を読むのがすごく楽しみである。

(終り)


スターダストより註。

この文はジェームズ・アレンについての第一人者であり、アレンの著作を多数翻訳している、坂本貢一氏によるものです。ごま書房刊の雑誌「SP精神世界」NO3(1999年2月28日)からアップしていますので、文中の「今年」などの表現は1999年のことです。

また、文中に「2号」とあるのは、ごま書房の「精神世界」2号のことです。


坂本貢一氏の略歴
1950年生。東京理科大理学部卒。製薬会社勤務(5年)、米国留学(2年)、薬局チェーン経営(13年)を経て、1990年より能力開発関連企業の国際事業部に所属して翻訳活動を開始、主として自己啓発書の翻訳に当たる。精神世界の研究にも携わり、1997年よりフリーの翻訳家、ライターとして活動。精神世界関連雑誌の編集にも携わる。訳書に『アンデスの封印』『神々の予言』『考えるヒント生きるヒント』『考えるヒント 生きるヒント?』『考えるヒント生きるヒント?』『心の中の自分と語れ』(以上ごま書房)『あなたに成功をもたらす人生の選択』『人生がばら色に変わる50の言葉』(以上PHP研究所)『ライオンの隠れ家・異星人だった歴史上の偉人たち』『今すぐ人生を変える簡単な六つの方法』『12番目の天使』(以上求龍堂)などがある。茨城県桜川村在住。
アマゾンJAPANで調べた坂本先生の著作


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更新日:2001/08/18
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